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2014年10月25日 (土)

『内気な天使たち』(35)

  卒業式

 今日(三月二十四日)は、卒業式の日だ。小六と中三の生徒たちが、

制服姿で登校した。 

 普段、ジャージ姿のワタルも、今日は制服を着ている。私は、彼の制服

姿を、本校に来て、初めて見た。 

  彼は、A組の教室内で、学習発表会の悪代官役で使った剣を、なつかし

そうに振り回していた。 

  晴男は、いつものようにマットを敷いて、その上に座り、前後左右に体を

揺すっていた。時には、腹ばいになったりもしていた。

  すると、そこへ、二年生のツヨシが入って来た。開口一番、彼は言った。

「アケマシテ、オメデトウゴザイマス!」と。 

  教室内にいた教員は、一瞬ハッとした。すると、加藤先生が言った。

「はい、おめでとう!」と。そこには、何か温かいものがあった。



  卒業式会場の体育館に至る渡り廊下には、黄色のリボンが所狭しと

下がっていた。 

 愛ちゃんが、それらを笑いながら触って歩く。彼女には、それらが余程

可愛く見えたのだろう。何にでも興味を示す好奇心旺盛な女生徒だ。

  式場には、在校生がすでに椅子に腰を下ろして、卒業生の入室を

待っていた。さあ、卒業生の入場だ。在校生が拍手で迎えた。小六と中三

の生徒たちが向かい合う形で座った(*下の写真は、イメージ)

         Photo


  いよいよ、卒業証書の授与である。小六は、小野寺光明君(仮名)から、

中三は、清水恒君からである。二人は、学年代表だけあり、とても堂々と

していた。 

  卒業式と言えば、みんなが緊張した中に整然と証書を授受するという

思いがあるが、養護学校のそれは、明らかに違っていた。

 

  先ず、生徒たちが校長先生の前まで進み出るのが、一苦労である。 

違った方向に行ったり、行くのをむずがったり、奇声を上げたり、実に

個性的だ。 

  証書を受ける前に、手でそれを握ってしまったり、全く横を向いてしまっ

たり、頭を振りながら他の方へ行ったり、校長先生もたいへんだったと

思う。 

  今日は、小六の加藤さんが興奮して、式の途中から立ち上がり、辺り

をうろうろと徘徊し始めた。 

  数人の先生が彼女を制止し、どうにか席につかせた。彼らには、

「卒業」という認識が全く無いのかも知れない。


  ワタルが、本校の思い出について、色々な体験を語ってくれた。

その後、みんなで「TOMORROW」を合唱して、両学年の卒業を祝った。 

  先生方と在校生が花道を作り、その間を卒業生が歩く。在校生は

紙吹雪をまき、卒業生を見送った。方々で拍手が起こり、歓声が湧き

上がった。手作りの温かい卒業式だった。 

  実に素晴らしいと思いつつ、私は会場を後にした。これで、みんなとも

お別れである。彼らの卒業は、私の「卒業」でもあった。 

  そこには、一つの区切りと同時に、内心、寂しいものがあった。

 

 

 

  お別れ会

 

 

 今日(三月十九日)は、卒業生の「お別れ会」があった。大学で言えば

「謝恩会」である。午後二時、生徒や先生方、それにご父兄が食堂に

集った。今日は、諸先生方も、スーツにネクタイという出で立ちである。

その姿が、とても新鮮だった。 

  テーブルには、各所に花が生けられ、それぞれにシュートケーキと

缶ジュース(お茶も含めて)が置かれている。所々に、その他のお菓子

が山積みにされていた。


           Photo_2


  保護者と生徒が並んで座った。私は、今日初めてお会いするという

保護者が殆どだ。 

 私の隣りは田中先生、正面は加藤先生である。斜め前が富田明で、

お母さんが彼の右横にいらした。すでに、アキラの目は、ショートケーキ

に注がれていた。



  会の最初は、生徒たちへの花束だったが、それを保護者が各々自分

の子供たちに上げる形をとった。ところが、清水恒の親御さんが見えて

いないということで、私が彼に花束を渡す役目を負った。 

  渡す際、「清水君、卒業おめでとう!」と言うと、彼は少し照れていた。

会の進行係は、本田先生である。ユーモアを交えながら、温かい雰囲気

で会が進んだ。校長先生のご挨拶から、保護者の挨拶へと会が進む。

 

  ところで、アキラは、まるで憑かれたようにケーキをパクついていた。

口の周りを、白いクリームが覆っている。 

  お母さんが、もっとゆっくり食べるようにと注意されるのだが、アキラは、

その声を、全く無視している。そこには、彼だけの世界しかなかった。

ジュースも、まるで競争でもあるかのように、素早く飲み干した。

  確かに、今日の食事だけでなく、アキラは、すべてにおいて、人よりも

早く行動した。

 

 教室移動の際も、みんなと離れ、廊下をスキップして走る彼の行動を

何度か目撃した。 

  余りの先走りに、時々、加藤先生から、軽くゴツンとやられていた。

だから、食事の時だけ早いわけではなかった。

 

  会の中ほどで、保護者からのお話があった。とても正直な思いが語ら

れていた。 

 晴男のお母さんが語られた後、晴男は彼女のマイクを取り、それを

口許に運び、歌い出した。 

  「サイタ、サイタ、チューリップノハナガ、ナランダ、ナランダ、アカ、

シロ、キイロ、ドノハナミテモ、キレイダナァー」。思わず、みんなで拍手

した。

      Photo_3



  この後、ジュン君のお母さんがお話をしておられる時、アキラの表情が

急変した。 

 彼は、上半身を前に傾け、戻す(吐く)ような形をとった。お母さんが制止

なさろうとしたが、すでに遅かった。 

  彼の前は、彼の胃袋の前まで旅して来た食物が、形を変え、元の所に

戻ってきた。私は、パーティで、こんな場面に遭遇したのは初めてだった。 

  だが、彼のお母さんの言では、これはしょっちゅうあるとのこと。親御さん

たちのご苦労を思わずにはいられなかった。          【つづく】

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

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