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2014年10月20日 (月)

『内気な天使たち』(31)

   第三章   天使たちの旅立ち 

 

    天国(T養護学校)での生活を終えて  

 

      ―  祈りと感謝  ― (三学期) 

 

     陽介君のこと

  
 今日(一月九日)は、昨夜来の大雪で、関東地方は、大童となった。 

私も、長靴を履き、厚手のコートを着込んで出勤した。学校に到着すると、 

事務室の方々や一部の先生方が、雪掻き作業をしておられた。スクール

バスが入れるようにとの配慮からである。


           Photo



  スクールバスを待つ間、小山先生が上手に雪を捏ねながら雪ダルマを
 

作られる。先生は、秋田のご出身と聞いている。そのせいか、雪の扱いが、 

ひじょうに手際よい。いつの間にか、大きな雪ダルマが二つも出来てしま

った(*下の写真は、イメージ)

             Photo_2

 
  さあ、スクールバスの到着だ。だが今朝は、愛ちゃんや晴男、それに

勇太の顔が見えない。二年A組は、全員欠席とのこと。総じて、半分ほど

の出席だった。 

  久し振りに会ったゆりが、私と目が合うと、ニカーッと笑ってくれた。

嬉しかった。

 

  今日は、C組の陽介の用便(小用)に付き添った。ズボンを脱がせ、

ンツの下のオムツのテープを外す。彼は、頭を左右に振りながら、

私の髪の毛を掴む。 

  定位置に立たせるまでが、ひと苦労だ。今日は、オシッコが出なかった。

オムツも濡れていないので、不思議に思ったが、それほど水を摂取して

いないのではないかと考えた。



  その後、彼が大きな方の用を足しているところを見かけた。トイレの前で、

土屋先生が、彼を待ちながら、何か書き物をしておられる。暫くの間、

先生と陽介のことで語り合った。 

  それによると、陽介は、昨年の二学期頃から、やっと自然とウンチが出る

ようになったとのことだ。それまでは、座薬を用いて、用便を促していたと

いう。 

  「ウンチが出るなんて、我々は、当たり前だと考えているけれど、そうじゃ

ない子もいるんだよね~」と、土屋先生が、感慨深げに仰る。

確かに、その通りだなぁと思った。 

  陽介は、先生にお尻を拭いてもらって気持ち良さそうだった。


 
  今日のマラソン練習では、みんなで廊下を走り廻った。私たちは、昔から

「廊下は、走らないもの」と教育されてきたので、廊下を走ることに、最初は

戸惑いもあったが、今では何とも言えない解放感と、それに伴う快感が

ある。

              

Photo_3


  今朝は、陽介の手をとって、早足に歩いた。彼も、上体を前に傾けながら、

懸命に走る(いや、歩く)。 

  私は、彼を見やりながら、これが、小六まで、車椅子で生活していた子だ

などとは思えなかった。 

  人間は、トレーニングや努力次第で、どのようにでも変わるものだと思

った。かつて、ウンチやオシッコも、ましてや歩くことさえできなかった子が、

今、そのすべてができるのだ。そのことに、私は、言い知れぬ感動と喜び

を感じていた。 

  外では、積もった雪に、太陽の光が当たり、一瞬キラリと光った。

 

 

   伊藤英樹





  今日(一月十四日)、晴れ時々曇りといった天気だった。先日来の残雪

が、まだところどころ氷雪している。 

  本校の昇降口前には、小山先生が作られた雪ダルマの頭部が転げ落

ち、胴体だけになっていた。

 

  スクールバスが着くと、勇太がカバンとコートを放り投げ、残雪の方へと

走り出した。 

 そして、彼の手ほどの氷を二つ両手に持って、遊び始める。暫く、その

ままにさせていた。 

 すると彼は、その氷を、本田先生のところまで持って行き、”ハイ、

プレゼント”といった仕草をする。 

  本田先生は、「はい、ありがとう」と言って、それを受け取られた。



  更衣室の中で、本田先生の大きな声が響く。「マモル、耳はどうしたの?

耳は?」と。マモルは、困惑した顔で、彼の左耳の補聴器を探し始めた。 

  だが、なかなか見つからない。彼は突然、自らの頬を殴るという自損

行為をし始めた。

          Photo_4

 

 本田先生は、彼の着替えを入れた風呂敷包みを開けさせた。すると、

衣類の間から、ポロリと補聴器がこぼれ落ちた。 

  「あったじゃないか」と本田先生。マモルは、フーッと口許を尖らせて、

それを左の耳に嵌め込んだ。



  今日は、避難訓練、廊下を走ってのマラソン練習、身体測定、それに

劇の練習と作業だった。 

  避難訓練では、生徒は全員、お母さん手作りの防空頭巾を被り、先生

方は、ヘルメットを被られる。 

  非常階段を使っての訓練だ。伊藤英樹が私の手を求め、一緒に行こう!

という素振りをする。彼と一緒に体育館に入ると、すでに小学部のみんな

が坐って待っていてくれた。

 

  身体測定では、マコトがまた、入室を怖がり始めた。だが、加藤先生の

「マコト!」というひと声で、彼はすごすごと入って行く。 

  膝が真っ直ぐに伸びない子や腰が定まらない子、それに顎を出して計測

できない子など、実に様々で、計測そのものがひと仕事である。 

  私は、ジュン君の着替えを手伝い、靴下を脱いだり履かせたりした。

 

  二学期に登校を拒否し、家庭内で荒れていたヒデキの顔を見れたのが

嬉しかった。 

 彼は、紙工作業の時間が始まると、決まって「ウンチ」と言って、私に

トイレへの同行をせがむ。 

  だが彼は、便座に腰をおろすと、なかなか出てこようとしない。そのため、

トイレの出入り口のところで、十分近く待つこともある。 

  それで、「ヒデキ、もう、い~いかい?」と、まるでかくれんぼでもしている

ような声を掛ける。ヒデキは、水の流れる音を聞くのが快感のようだ。



  作業が済んで後片づけの際、石橋先生の言いつけで、ヒデキがゴミ捨

てに行った。 

 その時、彼はまた“一緒に行こう!”と私の手を引いたが、私は、一人で

行かせることが必要と考え、あえて一緒に行かなかった。 

  ところが、彼が一向に帰って来ない。気になって迎えに行くと、彼は、

未だ行く途中の階段上で、じっと私を待っている風情だった。

私は、そのヒデキの姿にびっくりしてしまった。

 その後、彼と一緒にゴミを捨て、教室へと帰った。     【つづく】                      

 

 

 

 

 

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