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2014年10月17日 (金)

『内気な天使たち』(29)

    ゆりの変化

  今日(十二月十二日)は、久し振りの青空だった。家の部屋から見た

富士山の白銀が、朝日に紅く映えていた。今朝も、学校への道を急いだ。

     Photo



  スクールバスを待っていると、マナブやアキラが、喜び勇んで降りて来た。

「お早う!」と声を掛けると、マナブが走りながら、ちょこんとお辞儀をして

くれた。 

  二年生のツヨシも、百キロの巨体を軽く傾け、「オハヨーゴザマス」と言っ

てくれる。彼の挨拶は、たいへん気持ちがいい。 

  ジュン君も、「アセ、カキマシタ」と言って、ニコニコしている。着替えをす

ると、確かに彼の肌着は、びっしょり濡れている。それで、それを、部屋に

渡した針金に掛けることになる。



  今朝は、晴男の行為が、とても印象的だった。彼は、バスから降りると、

私に向かって、右手で”オイデ、オイデ”をするのである。私は、彼の単な

る仲間というより、どうも弟分らしい? 

  彼は、私を抱擁しながら、”ヨシ、ヨシ"といった感じで、私の背中を軽く

ポンポンと叩いてくれる。それは、まるで親が子供(それも、幼児)に対す

る仕草なのだ。どうも、私は、晴男の"父性本能(?)”をくすぐるみたいだ。

 

  確かに、晴男は心優しい男の子だ。今日、体育館で荒馬の練習があっ

たが、井田先生が説明をなさっている間、晴男は、陽介のよだれ掛けを

手に持って、陽介のよだれを拭く仕草をした。 

  陽介は、それを意識することなく、頭を前後左右に振りながら、体を動か

していたが、晴男には、陽介がまるで弟か赤ちゃんのように見えるのかも

知れない。



  本校では、日々新しい発見がある。今日の紙工作業で、久し振りにゆり

の相手をした。彼女は、ミキサーのスイッチも押せない程に非力なのだが、

今日初めて、自分の力で、スイッチを押すことができた。また消すこともで

きた。 

  半年以上、そのような事が出来なかったので、半ば諦めかけていた私は、

本当にびっくりした。 

  中三の女生徒が、ミキサーのスイッチぐらい押せないなんて考えられな

い、と思われるかも知れない。ゆりと会う前は、私もそのように考えていた。

だが、知的障害児の中には、そういう生徒が実際に居るのである。

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  だが、今日のユリは、少し違っていた。何となく力(エネルギー)が漲って

いる感じなのだ。スイッチを点けたり消したりするだけでなく、水を張った

ミキサーを運ぶ時も、私の介添えなしで、彼女一人で出来た。私は、それ

を見ながら、心なしか感動していた。 

  普段、何気なくできる行為や行動が容易にできない時がある。そういっ

た時、何かができるというのは、たいへんな驚きとなる。 

  今日のゆりは、それを私に教えてくれた。ゆりの変化は、私の知的障害

児に対する認識の変化を促した。








  陽介君のお世話





  今日(十二月十九日)は、自分の着替えを済ませ、廊下を歩いていると、

偶然、日野先生とお会いした。お互いに、「お早うございます」と挨拶を

する。 

  すると、日野先生が、微笑みを浮かべながら、「もう、梅の花が咲いてい

るんですよ」と仰る。「えぇっ! 梅の花がですか?」と私。


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  「そうなんですよ。早いですね。教室が温かいせいでしょうかね」と

日野先生。 

 「先生、たまには、私たちの教室にも、お茶を飲みにいらして下さい」と、

優しく言い添えて下さった。突然、心が明るく、そして温かくなった。



  今日は、土屋先生が、朝一時間遅れのご出勤だったので、初めて

陽介のお世話をした。 

  着替えの際、腰がなかなか定まらないので、脱がせ難い。彼は、頭を

前後左右に振りながら、特製の靴をギシギシと軋ませている。どうやら

こうやら、着替えを済ませると、今度は、トイレでオシッコの番だ。 

  便器の前に彼を立たせ、ファスナーを下ろす。中は、紙製のオムつで

ある。テープを外して、用を足させようと試みる。だが、なかなか出て来

ない。 

  暫くして、少しずつ出てきた。妙に嬉しい気がした。少し方角がずれた

ので、彼の身体を正面に向き直した。 

  そして、彼の大切なものに少し手を触れると、大量のオシッコが急に

溢れ出し、私の手の甲にかかってしまった。


 
  後で、水で流せばよいと考え、そのまま、彼の小用を見守った。オムツ

が、かなり濡れていたので、スクールバスの中でやったのかも知れない。 

  古いオムツを外し、新しいものと取り替えた。だが、私は育児の体験も

なく、オムツ替えなどしたこともなかったので、どちらが前やら後ろやら分

からなかった。 

  後で土屋先生に聞いたところでは、学校内では、オムツ無しでいいと

のこと。普通のパンツに着替えるとのことだった。確かに、その方が、

はるかに気持ちいいと思った。



  私は、土屋先生から、陽介は小学部時代、ずっと車椅子だったことを

聞いて、驚いた。彼は、あのように歩けるようになったのだ。車椅子の

頃は、オシッコが前に飛ばなかったという。腹圧がないためらしい。 

  男の子で、そのようなことがあるなどとは、夢にも思わなかった。

陽介は、体を「く」の字にして歩き、用便する。この行為は、決して彼の

退行現象ではなく、むしろ前進した行為であり、活動だったのだ。

  私は、いつの間にか、人間の健康や健全な身体は当たり前だと考え

ていた。だが、決してそうではなかったのだ。 

  世の中には、むしろそうでない人の方が多く、それぞれの人々が、

色々なハンディに耐えながら、雄々しく生き抜いているのだ。 

  本校の生徒たちも、きっとそうなのだ。頭を振り続ける陽介の世話を

しながら、私は、そんな事を考えていた           【つづく】  

 

 

 

 

 

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