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2014年10月16日 (木)

『内気な天使たち』(28)

  学(マナブ)の異変



  十一月二十八日、A公園の銀杏並木の下を通り過ぎる時、私は思わず、

青空に映える黄葉の美しさに見とれてしまった。黄葉って、何て美しいの

だろう!

           Photo


  私は、男子更衣室で、ジュン君の介助を済ませ、ゆりを女子更衣室の前

まで連れて行った後、C組に行き、陽介の相手をした。 

  彼が教室の床に、まるでダルマさんのように座り込んでいたので、私も

座った。 

 すると、側にいた愛ちゃんが、座っている私の肩に手をやり、ひっくり返す

ような素振りをする。それで、わざとひっくり返る仕草をすると、彼女は、

キャッ、キャッと言って喜んだ。 

 私自身、教室の床で寝転ぶなどという行為は、まったく初めての体験だ

った。それは、妙に気持ちのよいものだった。

            
           Photo_2



  屋上でのマラソン練習の際、私は、愛ちゃんの手をとって走った(実際に

は、歩いた)。三年生だけでなく、時間差を設けて、一、二年生も一緒に

走る。 

  本田先生が、歩いている愛を見て、「愛は、歩いているんだもんな」と

仰る。「アタシ、走るのヤダもん」と愛。「生意気な小娘!」と、本田先生が

返す。 

  それを聞いた彼女、「牛、豚!」と、苛烈な人身攻撃(?) 

だが、本田先生も馴れたもので、笑いながら、彼女の元を離れられた。 

  「愛ちゃん、本田先生に、どうしてあんなことを言うの?」と問うと、

「だって、太っているんだもん」と、あっさりと答える。私は、二の句がつげ

なかった。



  今日の集会は、荒馬踊りの練習である。太鼓が三つ並んでいる。伊藤

英樹がいなかったので、江藤先生が見事なばちさばきを披露。中原先生

のピアノも、たいへん素晴らしい。とても難しい曲を見事に演奏なさる。 

  井田先生が前に出て、パート練習の説明をされる。ロープを持つ生徒と

馬になる生徒の二つに分かれて、跳ねたり走ったりした。 

  先生の説明の前、のぞみが両手を挙げて、「キャトウチェンチェイ!」

コールをする。加藤先生は、「場所を弁えて」と、静かに注意される。

                       (*下の写真は、イメージ)

         

Photo_4

  

 生徒が二つに分かれた時である。何を思ったか、馬に扮したマナブが、

ロープを持つ沢口友也の右肩を噛んだ。

  それに気づかれた加藤先生が、とっさにマナブを離し、彼の顔を押さえ

つけられる。 

 「今日のマナブは変なんだ。さっきも、太鼓を運ぶ時、イヤダ!と言って、

私を噛んだんだよ」と加藤先生。 

  確かに、今日のマナブは落ち着きが無く、いくぶん目の色が違っていた。

家で何かあったのだろうか?

 

  学校内のスイッチを消して廻り、ある時、コンピューターの作動に支障を

きたしてしまったマナブではあったが、普段は大人しい生徒である。 

  その突然の異変は、何が原因なのだろうか? 障害児教育の難しさを

垣間見る思いだった。

 

 

 歓び 

 

  今日(十二月五日)、私は、いつものようにスクールバスの到着を待つ

ために昇降口の前に立った。 

  すると丁度、小学四年生の竹内よしえちゃん(仮名)が、おじい様と

一緒に通用門の扉を開けたところだった。 

  彼女は、おぼつかない足取りで、ニコニコしながら、こちらに突進して

くる。そこには、まだ私一人しかいなかったので、私は、彼女を受け止め、

抱きかかえるかたちとなった。 

  彼女は、私の名前さえ知らないだろうに、嬉々として甘えてくれる。

私には、その無垢な精神が、とてもいとおしく感じられた。

  着替え室に行くと、すでにジュン君が、上着を脱ごうとしているところだ

った。私は、「ああー、ジュン君、遅れてゴメン!」と言いながら、部屋に

入った。 

  彼は、ニコニコしながら立っている。彼の着替えを済ませた頃、やはり

着替えを終えた晴男が、手を広げて、私のところに近づいて来る。

 例のゴッツンの挨拶である。抱擁し合うと、晴男は、右手でポンポンと

私の背中を叩いてくれる。自分が、いつもそうされているのだろうか。

 

  時には、私の頭を“いい子、いい子”とばかりに、軽く撫ぜてくれる。

どちらが生徒か先生か分からなくなる時がある。まるで「メダカの学校」だ。

  今日、晴男は、別れ際に、私の頬に軽くキスをしてくれた、頬とはいえ、

私は、男の子からキスされたのは、生まれて初めてだった。余程、ショック

だったのか、それとも嬉しかったのだろうか、その数日後、私は、晴男の

夢を見ることになる。



  A組の教室に入ると、小山先生が、キザラか何かの砂糖を瓶に詰めて

おられた。先生が、明に「アキラ、この瓶に、”さとう(砂糖)”って、ラベルを

書いて!」と仰ると、明は、熱心にラベルに字を書いている。 

  だが、そこには、”さとう”ではなく、”あきら”と書いてあった。小山先生

も笑いながら曰く、「アレ、アキラ、”さとう”じゃなくて、これは、”あきら”じゃ

ないか。でも、まあこれでいいか」と。


          Photo_3


  今日のA組の日直はジュン君だった。彼は、田中先生のご指導で、みん

なの出席をとる。

  みんなの点呼が済んだところで、田中先生が私の方を指差して、「では、

そこに立っている先生は、何先生?」と、ジュン君に尋ねられた。

  ちょっと間があったが、ジュン君は答えた、「ワタナベチェンチェイ」と。

私は、ジュン君に名前を覚えて貰っていないと思ったので、この時の

ジュン君の答えは、たいへん嬉しかった。

 

  今日は『荒馬』の練習の前に、屋上で、十分ほど走った。後で気づいた

のだが、早目に到着していたB組の愛ちゃんが、入口の前で、ずっと私を

待ってくれていたとのことだった。その日は、風も冷たく、その寒気の中で、

彼女は立ちつくしていたという。 

  私は、晴男やジュン君、それに愛ちゃんのくれる”歓び”の中に居る

自分を感じていた。                       【つづく】                                      

 

 

 

 

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