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2014年10月13日 (月)

『内気な天使たち』(26)

  『トマトが咲いた』




  十一月十五日(土)、私は、T養護学校の体育館で、山田火砂子さん

(下の写真)作のアニメ映画『エンジェルがとんだ日』を観た。『トマトが咲

いた』は、この映画の原作とも言える作品である。


            Photo


  山田火砂子さんは、映画『太陽の詩』、『はだしのゲン』、『春男の翔んだ

空』、『裸の大将放浪記』などの名作を、ご主人の典吾氏と一緒に手掛けて

こられた映画人(プロデューサー)だ。 

  彼女の長女、みきさんは、重度の知的障害児として誕生する。今から

三四年前のことだ。彼女は現在、中野の愛成学園(女子だけの養護施設

:最近は、「メープル・ガーデン」と改称)にいらっしゃる。



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  『トマトが咲いた』は、山田さんの、愛娘みきちゃんとの涙ぐましい奮戦記

である。 

  アニメの内容も、ユーモアとペーソスに満ちた、たいへん感動的なものだ

った。市原悦子さんのナレーションと母親役も、とても素晴らしかった。 

  みきちゃんは一歳半頃、慶大の精神科で「知恵遅れ」の診断を受ける。 

山田さんは、みきちゃんを憐れに思い、入水自殺を計るが失敗。

  彼女のために逞しく生きていこうと決心する。このシーンを観て、私は、

目頭が熱くなった。

 

  みきちゃんが初めて口にした言葉は、保育園で覚えた「てんてい、タヨウ

ナラ(先生、さようなら)」だった。 

  或る日、みきちゃんは、「花が咲く」という言葉を習ったのだろう。それで、

すべての植物は「咲く」と考えて、テレビを観ながら「トマトが咲いてるよ」

と言ったのだ。 

  その他、彼女は「ボートが泳いでいる」とも言った。そこには、学校や普

通の世界とは異なる「純な精神世界」が広がっている。



  すでに書いたことだが、私は、中三の愛ちゃんと公園を一緒に歩いてい

た時、彼女が「あっ、あそこにオトコとオンナがいる」と言うので目をやると、

それは、鳩の番いだったことがあるのを思い出した。 

  また、「川(かわ)」という言葉を覚えたての妻の甥が、三歳頃、コップの

水さえも、「川、川」と言っていたのを聞いた。

 

  今の学校教育は、「競争」によって成り立っている。でも、競争からは、

決して愛は生まれない。 

  「障害児」と言われ、差別や偏見の目で見られる生徒たちの中には、

排他的な競争心はない。”すべて、みんなと一緒に”の世界である。 

  勿論、障害児とひと言で言っても、個性や資質、それに能力は異なる。

だが、彼らに共通して言えることは、純な「愛の心」を持っていることだ。 

  その意味で、彼らは、我々に「愛」を伝える天使なのではないだろうか。

山田さんのお話を聞きながら、私は、ふと「T養護の天使たち」のことを

思い出していた。

 

 

  マラソン大会
 

 

  今日(十一月十九日)は、マラソン大会である。黄色く色づいた銀杏の

葉が、青空によく映えている。空気は、少しひんやりとしている。みんな、

ジャージの格好で登校した。 

  九時三十五分までに、通用門前の桜の木の下に集合である。今日は、

A組の、あののぞみが、珍しいことに、私の手を求めてきた。 

  手を繋いだままの状態で、A公園の向かい側を歩いていると、のぞみは、

加藤先生に冷やかされてしまった。 

  「アレ、のぞみ、おまえ、渡邉先生と、いつから、そんな関係になっちゃっ

たの?」と。― 

 のぞみは、その言葉を聞くでもなく、唯、頭を軽く左右に振りながら

歩いた。


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  のぞみの受難(?)は続く。出発前、みんなでくつろいでいると、

女教諭の石橋先生がのぞみに向かって、「のぞみ、ワ・タ・ナ・ベ・セン

セイって、言ってごらん」と仰る。

  ところが、のぞみの口をついて出て来た言葉は、「カトウチェンチェイ」

である。 

 「カトウセンセイじゃないの、ワ・タ・ナ・べ・センセイ!」と石橋先生。 

  だが、二度目の言葉も「カトウチェンチェイ」だった。「あら、トーン(語調)

を変えてる」という石橋先生の言葉が、周囲の笑いを誘った。 

  のぞみは、三回目にやっと、「ワタナベチェンチェイ」と、囁いてくれた。

”有難う”という思いだった。

  今日のマラソンは、二年生の翔太の伴走である。校長先生がピストル

で、出発の合図をなさると、翔太は耳を塞いだ。彼は、ピストルの音が、

大の苦手である。 

  「ヨーイ、ドン!」、一斉にみんなが飛び出した。翔太は、すでに歩く態勢

である。他のみんなが、だんだんと先を走って行く。 

  手を組んで走ろうとするが、翔太は、なかなか前に進まない。裕治以上

の重たさだ。汗が少しずつ滲み出てくる。

 

  そのうち、翔太は「スース、カテコイ」と言う。多分、「ジュース、買って

来い!」と言っているのである。 

  彼は、「スース、コラ、カヒ、ティー」と続ける。これは、ジュース、コーラ、

コーヒー、紅茶の意味だと思う。 

  そして、翔太は、路肩に積もった木の葉を掻き集め、それをばらまき

ながら、木の葉に向かって「バーカ!」と言う。たいへんなマラソン大会で

ある。



  ところが、三周目だったろうか。途中、バキュームで枯れ葉の清掃なさ

っている所に近づくと、翔太は、その大きな音に恐れをなし、急に走り出

した。 

  いつかの、ハトが嫌いで逃げ出したのと同じである。その軽快な足取り

は、それまでの翔太には、想像だに出来なかった。私も、思わず彼と

一緒に走っていた。 

  二人して、ゴールまで走り込む。時間は、三周、37分38秒。決して早い

速度ではないが、先回の41分の最低記録は更新した。無事、全員が

完走し、整理運動の後、公園を後にした。          【つづく】                                 

 

 

 

 

 

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