フォト
2017年11月
      1 2 3 4
5 6 7 8 9 10 11
12 13 14 15 16 17 18
19 20 21 22 23 24 25
26 27 28 29 30    
無料ブログはココログ

« 『内気な天使たち』(22) | トップページ | 『内気な天使たち』(24) »

2014年10月 9日 (木)

『内気な天使たち』(23)

  秋の日のマラソン練習

  今日(十月二十二日)は、残暑の厳しい一日だった。今日も、スクール

バスを迎える。清水君が一番乗りだ。

「清水君(=ワタル)、お早う!」と言っても、全く無視されてしまった。 

  「太郎、今日もジョーロ持って来たの? もう畑も無いのに!」と言う本田

先生の大きな声が、みんなの笑いを呼ぶ。 

  確かに、太郎は、ジョーロでの水撒きを指示されて以来、雨の日でも、

ジョーロを持って飛び出していた。 

  しかし、今日は、すでに畑が無いのを知らなかったのだろうか。そこに

は、不思議な障害児の世界がある。


          Photo

 


  今日のマラソン練習は、久し振りに、愛ちゃんと走る(厳密には、歩く)

ことになった。 

 出発前、晴男が私を認め、近寄って来た。そして、恒例の抱擁とおでこ

をゴッツンの挨拶をする。 

  すると、何を思ったか、愛ちゃんまで近づいて来て、プロテクターの

ついた頭を寄せて来た。相手が女の子なので、私は思わずハッ!とし

たが、気楽な挨拶のつもりで、軽くゴツンとやった。

 

  さあ、出発だ。この前は、コウジと一緒だったので、先頭集団を走った

が、今日は、後ろから二番目になった。われわれの後ろを勇太が歩い

ている。

  愛ちゃんとジュン君が仲良く語り合いながら歩く。「ジュン君は、左が

マヒで、私は、右がマヒなのよね」と愛ちゃん。 

  「ねえ先生、マヒって、どんなこと?」と、彼女は、予想もしない質問を

する。 

 「マヒって、体がうまく動かないことだよね」と、答える私。そう答えなが

ら、答えること自体、何だか変な気分だった。 

  愛ちゃんの質問は続く。「アタシは、いぬ年。ジュン君は、何年?」と。 

するとジュン君、「あれ、ボク、何年だったかなー?」と。 

  助け船のつもりで、私が「先生は、丑年だよ」と言うと、愛ちゃん、

「あー、丑年か、牛って、メエーだっけ?」と言う。 

  私が「メエーは、羊だよね」と言うと、「あー、そうか」と愛ちゃん。

 

  こんな話をしている間に、ジュン君は、少しピッチを上げ出した。そして、 

彼との間が、だんだんと長くなっていった。 

  愛ちゃんは、よだれをこぼし出した。立ち止まって、ティッシュで、それを 

拭き取る。 

  すると彼女、遠くを指差しながら、「ああー、あそこにオトコとオンナが

いる」と言う。よく見ると、それは、ひと番いの鳩だった。 

  「愛ちゃん、あれはオスとメスと言うんだよ」と私。「ふーん、オスとメス

か」と彼女。

            Photo_2


  そんなことを話しながら歩いていると、校長先生が走ってこられ、「児島

さん、頑張れ!」と声をかけて下さった。先生のトレーナー(上着)は、汗

でびっしょりである。 

  そうだ、今日はマラソン練習なのだ。秋の陽射しの中、走るみんなの

顔が紅潮していた。さて、ゴールまで、後ひと息だ。 

  日野先生の「児島さん、頑張れ!」の声が、最後の励ましとなった。 

          Photo_3

 

 

  天使の声(?)

 

  十月末日の今日、学校に着くと、立花さん(仮名)が、事務室から「お早う 

ございます」と、明るく声を掛けて下さった。思いがけず、こちらも同じ言葉

で応じた。 

  事務室の山岡氏が、「先生、よかったらお茶を飲んでいらっしゃいませ

んか」と、中国の健康茶を勧めて下さった。

  それを戴きながら、壁に目をやると。そこには、「気 心 腹 口 命」と書

かれた細長い紙が貼ってあった。 

  読み仮名として、「きはながく、心はまるく、はらたてず、くちつつしめば、

いのちながかれ」と書いてあった。 

  成程、とてもいい言葉だなと、感心しながら読んだ。こんな思いで毎日が

過ごせたらいいな、と思った。

 

  今日の授業は、集会と作業である。集会の前に、屋上で準備体操をし

て、十分ほど走った。久し振りに走ったので、たいへん気持ちよかった。 

  今日は、B組の愛ちゃんはお休み、ジュン君は加藤先生の介助で、筋肉

強化のトレーニングをしていた。 

  ゆりちゃんには、中村先生がついておられる。普通のペースで走ってい

ると、A組ののぞみがついて来た。彼女も走るのが楽しそうである。

時々、目を閉じて、気持ち良さそうに風を切っている。

 

  整理体操をして、思い思いに体育館に行く。そこには、映写機がセットさ

れていた。各学年ごとに並ぶ。すると、のぞみが突然、明瞭な声で「カトウ

チェンチェイ」と言う。 

  加藤先生は、間髪いれず「ハイ、ハイ。でも遠足の電車の中では、呼ば

ないでおくれ」と仰る。その掛け合いが何とも微笑ましい。 

  みんなが腰を下ろし、来週木曜日に遠足で行く多摩動物公園の様子を

観る。 

 じっと画面を見つけている子、よそ見をしている子、はしゃいでいる子

など、様々である。

        Photo_4


  私は、陽介の相手をしたが、帰って彼を興奮させてしまった。中村先生

から、「先生、構わない方がいい。その方が大人しくしていますから」と言

われ、離れると、はるかに静かになった。 

  ”やはり、経験の差だなぁ”と、心の中で思った。常に生徒の相手をすれ

ばいい、というものではないようだ。構うことと構わないことの兼ね合いが

問題だ。ひとつ勉強したと思った。



  集会が済み、紙工作業に行く。そこには、すでにゆりがいた。いつもの

ようにミキサーを用意し、撹拌作業に入る。そして、それを洗い場まで戻し

に行く。 

  丁度、その時である。ゆりが、何か囁いた。それは、全く意味を理解でき

かったが、はっきりと耳に届いた。 

  まるで妖精か何かがしゃべったような、か細い声だった。だが、全く言葉

発しないと諦めていたゆりの声を初めて耳にしたのだ。 

  それは、今まで聞いたこともない囁くような、まるで蚊の鳴くような、

まさに「天使の声」(?)だった。                   【つづく】

            Photo_5


 

« 『内気な天使たち』(22) | トップページ | 『内気な天使たち』(24) »

日記・コラム・つぶやき」カテゴリの記事

Links