フォト
2017年1月
1 2 3 4 5 6 7
8 9 10 11 12 13 14
15 16 17 18 19 20 21
22 23 24 25 26 27 28
29 30 31        
無料ブログはココログ

« 『内気な天使たち』(21) | トップページ | 『内気な天使たち』(23) »

2014年10月 7日 (火)

『内気な天使たち』(22)

 

 運動会


  今日(十月十日)は、本校の運動会である。「体育の日」(当時)には

珍しく曇り空だったが、時折薄日が射し、まずまずの天気だった。 

  九時十分、全員が入場口に集合し、行進の合図を待っている。赤組の

旗手は、清水君ではなく、青山学(仮名)だった。彼は、袴を着ている。 

  行進は全員一糸乱れずといったわけではなかったけれど、自然で

気取りがなく、たいへん良かった。整列した後、聖火の入場を待つ。

 

  ジュン君が多少緊張気味にトーチをかざして歩いて来る。『炎のラン

ナー』の音楽が、とてもよくマッチしている。すべてが手作りといった感じ

で、何とも言えない温もりを感じた。

  競技に入る前の応援合戦では、大太鼓が用意され、勇太がなかなか

の腕前を披露する。一部の生徒が法被姿で彩りを添える。軽部君も、

太鼓のリズムに合わせて踊り出している。それが、何ともサマになって

いる。

                       Photo

 

 
  

 最初の演目は、小学生低学年の徒競走。― 

まるで水泳のように手を回転させながら走ってくる子、途中、校長先生

の所へ行き、立ち止まってしまう子、ゴール寸前で急に立ち止まり、どう

したものか?と考えるような素振りを見せる子など、実にバラエティに富ん

でいる。 

  まとめて言えば、”競走”とか“人を出し抜く”という思いが、殆ど皆無だ。 

  中学部の徒競走でも、この思いは、それ程変わらない。仁もマコトも、

「ヨーイ、ドン」の合図を受けても棒立ちになったままで、口を開けながら

歩き始めた。 

 競走ということを認識できないのではなく、元々そういった思いが無いの

かも知れない(*下の写真は、イメージ)


         Photo_2



  だが、中には、精一杯走り出す子もいる。普段余り走るところを見せな

いツヨシが、百キロの巨体を震わせて走ってきた。彼は一位だった。 

  勇太も頑張ったが、彼は勢い余って倒れてしまった。大きな体で手足

が不自由なため、なかなか起き上がれない。 

  本田先生が介助なさったが、勇太はやる気をなくしてしまい、起き上が

り走ろうとはしない。 

  その内に、次のグループが走り出した。ほぼ全員が走り終えた頃、勇

太が本田先生に抱きかかえられるようにして走ってきた。 

  二人がゴールに入ると同時に、ゴールの辺りにいた人々が一斉に拍手

をした。それは、普通の学校ではなかなか見られない光景だった。

 

  その他、小学部の生徒によるピラミッドや色々の障害物競走など

があった。 

 先生方が、それぞれの役割分担の中で懸命に仕事をこなしておられた。 

  ボランティアの中学生たちも清々しかった。それに、保護者(実際は、

お母さん方)の連帯感が強いという印象を持った。 

  私は、養護学校の運動会を生まれて初めて見たが、それは、心の中

になんとも言えない温かさを感じる心地よい体験だった。

 

 

 

  コウジ君とのマラソン練習

 

  運動かも無事終了し、T養護には、今までと同じ生活のリズムが戻っ

ていた。 

 みんなのバスを出迎えに昇降口に降りた時、すでにジュン君が腰を

下ろして、靴を履き替えていた。「汗、カイタ」と彼は言う。 

  彼は、一人黙々と歩いて登校する。「そう、汗かいてるね、リョウ君」と、 

私は、彼の足元に膝まづきながら、彼の靴の脱ぎ具合を見る。

 

  その後、私は、いつものように彼の着替えを手伝った。すると、田中

先生が入って来られ、「ジュン、チャレンジ!」と仰る。 

  何だろう?と思うと、ジュン君は、汗で濡れたシャツを、室内に張った

針金に掛ける仕草をする。 

  それは、“自分で出来ることは自分でしなさい”という教育的配慮だっ

た。その二人のやりとりを、私は、とても微笑ましく思って眺めていた。 

  さて、今日は、久し振りにマラソン練習と作業である。



  いつも、愛ちゃんの伴走をするのだが、今日、彼女は欠席。―
 

初めてのことだったが、二年生の本橋幸司君(仮名)と一緒に走ること

になった。 

  本橋君とは、陶器の作業の時間や着替えの時に会っていたが、

とても素直でもの分かりのいい生徒だった。走ることも、決して苦手では

なさそうだ。 

  唯、癲癇の発作があるから、決して無理はできない。「どうか、彼の

ペースで走ってみて下さい」と、堀部先生からご忠告を受けた。

           
          Photo_3

 

   今日は、このコウジ君と一緒に四周を走る。でも、最近は、四キロの

道程を走ってはいなかった。 

  今日からみんなと一緒に走られる校長先生も、やる気十分である。

みんな、一斉に駆け出す。 

  私にとって、それは久し振りの解放感だった。”ヤッホー!”といった

思いである。

  私たちは、いつの間にか先頭集団になっていた。マナブが前を走って

いる。二番手のマコトと仁(ヒトシ)を抜いたり抜かれたりといった状態になっ

た。

         Photo_4


  コウジは、私の後ろを、ちゃんとキープしている。なかなかの意志力と

持久力を持った子だと思った。それは、伴走というよりも、先導する形と

なった。 

  少しペースが速くなって、彼と離れ過ぎたと思ったら、少し足踏みをしな

がら、彼が追いつくのを待った。 

  コウジは、少し喘ぎながらも、よくついて来てくれた。思わずペースが速く 

なって彼と離れると、小山先生から、「本橋と一緒に走って下さい!」と、

ご忠告を受けた。確かに、その通りだった。これでは、伴走の意味がない。

 

  だが私は、コウジは走り込めば、きっといい結果が出せるのではないか

と思い、敢えて突き放すような感じで、彼の前を走った。 

  だんだん汗がにじみ出てくる。彼も、少し歩く時があったが、最後まで、

ペースを落とすことなく走った。ゴール前では、彼のペースの方が私より

はるかに軽快だった。 

  今日は、本当に久し振りにいい汗をかいた。これも、コウジと本校の

お蔭である。心より感謝!                    【つづく】                            

 

 

 

 

 

 

 

 

 

« 『内気な天使たち』(21) | トップページ | 『内気な天使たち』(23) »

日記・コラム・つぶやき」カテゴリの記事

Links