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2014年10月 3日 (金)

『内気な天使たち』(19 )

  翔太とのマラソン練習


  今日(九月十七日)、三年生は、東北への修学旅行だ。みんなの顔が

見えないのは、ちょっと淋しい気がする。 

  今日は、マラソンの練習と作業で、練習では、樋口翔太(仮名)と藤山

清美さんを見ることになった。 

  二人共、走ることは、なかなか難しい。それでも、藤山さんは自分で歩い

て行くので、さほど手はかからない。 

  だが、問題は翔太である。彼は、肥満体のダウン症児で、走るのが大の

苦手である。 

 彼はまた、今まで走ったことがないのではないかと思える程、走ることを

嫌がる。



  彼と一緒に走る(いや歩く)のは、今日で二回目である。先回は、公園

三周を四十一分で歩いた。多分、これは、本校の最低記録であろう。 

  今日は、四十分を切ろうと、私は心に決めていた。後は、翔太の心掛け

次第である。 

 彼のポッチャリした手を握ると、彼は私の毛深い手に目を止め、「アー、

チンゲ(?)」などと言う。 

  ”そうじゃないよ”と心の中で思いながら、言っている意味が分かってい

るのかと、いぶかしく思う。

        Photo




       Photo_2
 

  彼の手をとり、少し足早に歩こうとすると、「オーイ、コラ!」ときた。 

そして、公園の中央にあるトイレを指差しながら「うんこ」と言う。 

  私は、彼がかつておもらししたことを知っていたので、もしや?と思ったが、 

走ること(いや、歩くことさえ)を嫌がって甘えているのだろうと思い、無視し

歩き出した。 

  右手で藤山さんの手を握り、左手で翔太の手をとりながら歩くのは、

今日が初めてである。

 

  途中、翔太が「アー、アト、アト」と言うので、何だろう?と見ると、数羽の

ハトが、エサを探し回っていた。自分では「ハト」と言っているつもりなのだ

ろうか。

        Photo_3


  また、「アー、クークーシャ」と言うのが、目をやると、それは救急車なら

消防車だった。

         Photo_4


  ゴール前五十メートル辺りの所に、女教諭の日野先生(仮名)が立って

おられたので、「翔太が、『うんこ』と言っていますが」と申し上げると、

「それじゃ、トイレまでお願いできます?」とのこと。 

  藤山さんを独り歩かせ、翔太の手を引いてトイレに入ろうとすると、彼は

急に「ナイ、ナイ」と手を横に振る。どうやら、便意はないようだ。 

  「翔太は、先生をだましたなぁー」と、からかいざまに言うと、彼は照れる

ように顔を手で覆った。

 

  コースに戻ると、野田治君(仮名)や橋本利夫君(仮名)たちが懸命に

走っている。すると、翔太が急に走り出した。 後ろのハトを見て、「アト

(ハト)が怖い!」と言いながら。・・・・・

「あれ、翔太は走れるじゃないか!」と、私は思わず叫んだ。 

  今日は、二度も翔太に騙されてしまった。だが、翔太は、妙に憎

めない。同じダウン症の晴男や軽部君とはまた違った意味で可愛い

生徒である。

 

 

 

  祈りの力(?)

 

  今日(九月十九日)は、台風二十号の余波もあって、出勤時刻頃、

激しい雨に見舞われた。靴下が濡れてしまい、裸足での仕事となった。

三年生は、今日帰京する。 

  一年生の勇太は、着替えの際、おもらししていなかった。いつもは、

よくパンツをオシッコで漏らしている。 

  彼は、三年のジュン君が、いつも座る椅子に腰を下ろして、片手で

着替えを始めた。 

 ほぼ終わって教室に行くかと思ったが、小六の教室に入って、先生に

摘み出された後、プレイルームへと駆け込んだ。

 

  そこには、軽部君と三橋君が先に来て、思い思いに遊んでいた。

軽部君は、小さな車に乗り、紐を振り回しながらロデオの格好。三橋君は、

バルーンで戯れていた。 

  勇太もへたり込んだまま、立ち上がろうとしない。「勇太、朝の会がある

から、教室に入ろう」と何度言っても、全く知らん顔。 

  ”これが、本田先生に対してだったら違うだろうに”と思いながら、「じゃ、

勇太はここに居なさい。先生は、もう教室に帰るから」と言っても何ら反応

なし。

 

  私は、プレイルームを出た。私がわざと遠回りして教室へ入ろうとすると、

向こうから、勇太が走ってくるではないか。 

  「勇太、先生とは来なかったくせに。このー!」と言って追い駆け廻すと、

キャッ、キャッと言いながら逃げ廻る。それは、まるで幼児の姿だった。

 

  今日は、野田治君(仮名)が、三十分遅れの登校となった。今日の集会

は、プレイルームでだった。

 運動会の準備で、応援とバトンタッチの練習である。準備体操の際、

治君だけは、丸めたハンカチをくわえて、室内をうろつき廻る。

 時々、判別不能な奇声を上げる。山田先生が彼を制止なさる。

一端は大人しくなる。

 

  バトンタッチの練習で廊下を走り廻る際、治はまた単独行動をとり始

めた。私は、彼の後を追う。彼は、「ミズ、ミズ」と言い、教室の蛇口に

カップを持って行き、飲み始めた。 

  「治君、みんなの所へ行こう」と言っても、「ナヌー、イヤ、イヤ!」と

言ってむずがる。 

 そして制止する私の手を払いのけようとする。一年生とはいえ、それは、

かなりの力だ。



  私は急に「ロザリオの祈り」を唱え始めた。それは、聖母マリアへの祈り

である。

 「めでたし、聖寵満ち満てるマリア、主、御身と共にまします。・・・・」

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  すると、治君が、急に大人しくなった。“自分以上に変な奴がいる”と

でも思ったのだろうか? 

  彼が静かになったのが祈り始めるのと同時だったので、ひじょうに

不思議な気がした。以来、治君は、比較的大人しくなってくれた。 

  集会、作業が済み、給食のため食堂に行こうとしていた治は、三階の

廊下で私を認めると、急に抱きついてきた。その理由は分からない。 

  本校での生徒との触れ合いは、心のスキンシップみたいなところが

ある。治君の突然の変化も、あるいは祈りの力かな?

                                      【つづく】

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