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2014年9月12日 (金)

『内気な天使たち』(6)

  すみこちゃん

C組の担任・土屋先生(仮名)の話しでは、中島すみこちゃん(仮名)は、

六ヶ月の知能だという。 正直言って、私は、そのような子が、この世に存

在することすら知らなかった。 

 彼女には、癲癇の持病がある。彼女は生後六ヶ月の頃、大ショック

(重い癲癇症状)で、30分程ひきつったままでいた。 

  その時、脳細胞がかなり死滅したそうだ。その時の後遺症が今も続いて

いる。

 

  すみこちゃんの年齢は十四歳、だが、彼女を初めて見た時の印象は、

おかっぱの幼女だった。まるで、日本人形のような感じだった。 

  時折、彼女は、指のおしゃぶりをする。玩具(ガラガラ)を舐めたり、それ

を抱きながら、まるで赤ちゃんでもあやすような仕草をする。

            Photo_4

       


  彼女は、不眠症でもある。そのため、毎日、精神安定剤を服用している。

普通の睡眠リズムが無いので、真夜中でも起きていたり、日中でもまどろ

んだりする。 

   校外学習(散歩)中、歩きながら眠り込むこともあるという。「今日は、

眠らなかったね」と、土屋先生の言。 

  確かに、椅子に腰を下ろした途端、彼女は、うとうととしてしまう。そこ

には、外界と隔絶された”自分だけの世界”がある。



  後日、ある寒い朝、すみこがストーブの前に体を寄せて、まるでそれを

抱くかのような姿で、しゃがみ込んでいた。 

  すると、それを見たB組の加藤先生曰く「ほら、見て御覧なさい。まるで

炬燵の中の猫みたいなもんでしょう」と。 

  「まあ、この子たちを動物扱いしちゃ、保護者も怒るでしょうが、形態だけ

見ると、まるで犬や猫と同じなんです」と、続けられた。 

  傍目に聞けば、かなり残酷に聞こえるが、この言葉は、重度の障害児の

本質を衝いていた。

 

  すみこや陽介(仮名)、それにゆり(仮名)といった重度の障害児にとって、 

「生きる」とは、一体なのだろう? 彼らにとって、“生きがい”とは、一体何

なのだろうか? 何か、凄く考えさせられるものがあった。 

  すみこは、時々癲癇の発作を起こす。そんな時は、急に頭を振ったり、

手足をわなわなと震わせたりする。急に笑い出したかと思うと、突然泣き

出すこともある。すべては、脳内の問題から来ているのかも知れない。

 

  辺り構わず横になったり、顔面が紫色になる、いわゆるチアノーゼ状態

になったりもする。 

  私は、このようなすみこを見ながら、自分の「無力」を感じざるを得なか

った。それは、養護に携わる者としての「知識不足」というだけでなく、

一人の人間としても、彼女のために何の力にもなれないという本質的な

「無力感」だった。

 

 

 

  晴男君

 

 

  晴男君(仮名)は、ダウン症児だ。T養護の最初の日、荒川土手散策の

帰り道、私は、彼と手を繋いで帰った。ダウン症児の手を握ったのは、

生まれて初めてのことだった。あの時の彼の手の温もりを、今も思い出す。

  彼は、歩きながら、「アー」「ウー」「アー」「ウー」と、しきりに唸り声を上げ

ている。すると、こちらが、調子をとって、「ハーイ」と言えば、「ハーイ」と応

える。「ウーン」と言えば、「ウーン」と応える。こちらと全く同じ声と調子で応

じてくれるのだ。 

  何気ないことだが、私は、不思議な喜びを感じた。単なる人真似、もの

真似と言えば、それまでだが、晴男君の心には、とても「純な感性」が横た

わっていると思った。

 

  朝の会(教室内での朝礼)の前、3年A組の教室では、各生徒は、思い

思いの行動をとる。晴男君のそれは、教室の中ほどにマットレスを敷き、

その上で、座ったり横になったりする。 

  座っている時は、何か呻きながら、三十センチの物差しで顎の部分を

パタパタとやる。痛くないのかと少し気になるが、本人は平気そうだ。 

  また、顎の下の方を、洗濯バサミで挟んだりもする。この時には、内出

血を起こしてしまったので、担任の小山先生から止められていた。 

  横になる時は、下腹部をマットレスに擦りつけ、気持ち良さそうにして

いる。

 

  或る日、彼のマットレスが、恒(ワタル:仮名)たちが作ったレーシング

カーのコースに触れて、それを壊しそうになった。 

  すると、怒ったワタルが、晴男の背中をしたたかに叩いた。晴男は、突然

のことで驚き、急にワーツと泣き崩れた。 

  私は、思わず晴男を抱きかかえた。晴男は、私の腕の中で泣き続けて

いる。それは、まるで、二、三歳児の様だった。 

  彼の流す涙が、私のトレーナー(ズボン)を濡らす、まるで、私がオシッコ

を漏らしたような感じになった。 

  その時以来、晴男は、挨拶の際、私に抱きついてくれたり、オデコを

ゴッツンとやってくれるようになった。

              Photo_2



  朝礼を前に、机の前に腰をおろした時、彼は、「はるお」という字のなぞり

書きをしていた。時々、字がはみ出してしまうこともあったが、彼は、そんな

ことに頓着することなく、呻き声を上げながら、唯ひたすら書き続けていた。

 

  彼は、お菓子をすべて「おまんじゅう」と言う。彼にとっては、ケーキも

菓子も「おまんじゅう」なのである。だが、それも可愛いと思う。 

          Photo_3

 

   晴男は、殊の他、音楽が好きなようだ。音楽の授業中の彼を見たことは

ないが、その後、マイクを握る機会があると、彼は必ず歌おうとした。 

  歌うことや、リズムに合わせて体を動かすことが、根っから好きみたい

だ。彼は、体全体で自分を表現しようとする。

  現代の中・高校生の多くが目立つことを避け、自己表現を余り積極的に

しようとしないのに比べて、彼は、ひじょうに活動的、かつ主体的である。 

  むしろ、彼の持つ積極性こそ、今の日本の若者たちに必要なものなの

ではないだろうか。私は晴男を見ながら、ついそんなことを考えていた。   

                                        【つづく】

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