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2014年9月11日 (木)

『内気な天使たち』(5)

  のぞみちゃん


  今朝の挨拶は、向井のぞみちゃん(仮名)の番だ。彼女も自閉症で、

殆ど言葉を発しない。「アー」とか「ウー」とか、軽い唸り声は上げるが、

殆ど”言葉”にならない。 

  「パピプペポー」的な言葉を発するが、それ自体に意味は感じられな

い。それゆえ、「起立」「礼」というのも、彼女にとっては大変なことだ。

小山先生(仮名)が、「『起立』と、号令をかけて!」とのぞみちゃんに仰る。

 

  彼女も、先生が求めておられることは理解できる感じなのだが、思うよう

に言葉が出ない。それで、その代わりに、左手の人差し指を真っ直ぐに

伸ばし、天を指して左手を挙げた。 

  一瞬、「何だろう?」と思っていたが、これが、彼女流の「起立」の合図

だったのだ。 

  先生は、即座に理解され、「ハイ、起立!」と、彼女の「言葉」を”通訳”な

さった。その言葉を合図に、みんなはおもむろに立ち上がった。  

 

   彼女の言う「オ・ハ・ヨ・ウ・ゴ・ザ・イ・マ・ス」という挨拶にも、健常者の

挨拶に無い重みと価値を感じた。実際は、決して明確な発音ではない。 

  時々、頭を振りながら、口をもぐもぐやるが、何を言っているのか、さっ

ぱり解らない。健常者の感覚で、意味を掴もうとしたが、B組担任の加藤

先生(仮名)の話では、言葉自体に意味は無いとのことだった。

 

  後で、彼女がよく口にする言葉を覚えた。それは、「ハニー、ハニー、クッ

チ、クッチ」という言葉だが、「ハニー」といっても、決して「いとしいあなた」

いう甘い意味は無さそうだ。唯、彼女にとっては、この言葉が、たいへん

心地よいのだろう。 

  それと、もう一つ、後で私は、彼女の「キャトウチェンチェイ!」という言葉

を知ることになる。これは、「加藤先生!」という呼びかけなのだ。つまり、

彼女は、加藤先生の熱烈なファンであることが、後で判明する。だが当時

は、そんなことを知るよしもなかった。 

 

  彼女はまた、教室の机の前に坐りながら、一生懸命に、不要になった

パンフレットや広告紙(チラシ)をハサミで切り刻んでいた。 

  これは、手や指の運動を兼ねて、卒業式の日に在校生が使う紙吹雪だ

った。その遠大な意味を理解するのは、卒業式当日を待たねばならなか

った。

             Photo

    

              Photo_2


  その日、体重測定に行く前、何を思ったのか、のぞみちゃんが突然、

私の目の前に、右手の人差し指を出した。だが、言葉が無い。 

  何だろう?と思っていると、彼女は、ちょっと顔をしかめた。よく見ると、

右手の人差し指の先に、棘が刺さっていた。 

  女教諭の石橋先生(仮名)が、私たちを見て、「どうしましたか?」と尋ね

てくださったので、「のぞみちゃんの指に棘が刺さっています」と、申し上げ

た。 

  その後、直ぐに、石橋教諭は、のぞみちゃんの手をとって、保健室に向

かって、歩いて行った。 

 

 

  身体測定

 

 

 今日は、身体測定の日だ。身長、座高、それに体重測定があった。保健

遠藤先生(仮名)が、一人ひとりの名前を呼ぶ。 

  ここでも、自分一人では脱げない生徒がいる。脳性マヒと小児マヒの後遺

症を持つジュン君だ。私は、彼の靴下を脱いだり履いたりする手伝いをした。 

  中には、担任の先生に「靴下を脱げ」と言われたのに、何を思ったか、

パンツを脱ぎだす生徒もいた。言葉そのものが十全に理解されないことも

多い。 

 

  座高計に座るのを怖がり、なかなか座ろうとしない生徒もいる。 

”座高計に食べられるわけでもあるまいし、それを怖がるなんて、嘘でしょ

う!”と、われわれは思う。 

  だが、一部の障害児にとっては、決してそうではないのである。彼らは、

新しい「体験」には、拒否反応を示す。特に、B組の葉山誠(仮名)は、

大の「保健室嫌い」である。それも、小一の頃から九年間変わらないので

あるから、決して半端ではない。

 

          Photo_3


  先ず彼は、保健室に入ることを警戒し、それを避けようとする。それで、

廊下の隅の方で、保健室内の様子をジーッと窺う。 

  それで、嫌いな”「歯科検診」ではないな”と思うと、少し安心したような

面持ちで、保健室へと入る。

 

  だが、やはり座高計だけは嫌いなのである。その他、保健室内で奇声

を発する生徒、身長計に充分立てない生徒、自分の計測が済んだので

退屈なのか、ちょろちょろと徘徊し出す生徒もいたりする。 

  単に身体測定とはいえ、実に個性的である。上半身裸になった途端、

両手を口元に持っていき、「ウフフ」と笑い出す生徒もいる。妙な快感を

覚えるのだろうか? 

  男の子が、そんな態度をとるのは、何だか不思議な気がする。まさに

普通学校ではまったく考えられない姿態である。 

 

  ダウン症の野中晴男(仮名)が体重計に載ったはいいが、手を広げ、

頭を前後左右に振り出した。計測できないので、土屋先生が、彼の頭を

ゴツンとやられた。 

  驚いた晴男は、目をひっくり返して、先生を睨みつけた。普段おとなしい

彼にしては、なかなかの迫力である。それは、“何で僕をブツの?”といっ

た目をしていた。 

  不快なことに対する反応は、かなり鋭いものがある。彼らにとっては、

すべてが「快・不快」で決まるのかも知れない。障害児の心や態度・行動

の原点を見る思いだった。 

 

  突然、遠藤先生が、「ヒェーツ!」と大きな声をあげて体重計を見入る。

「ツヨシ、三けた(100kg)になったよ」と、先生。 

  2年生のツヨシ君、少し照れたような仕草で、顔を自分の手で覆う。大柄

な体に似合わず、内気なようだ。 

  彼らは、肉体的には中学生なのだが、精神的(あるいは知能的)には、

三歳~五歳児なのではなかろうか。私は、その”ギャップ”に慣れるまで、

その後、少なくとも一年の歳月が必要だった。                【つづく】                              

 

 

 

 

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